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東京地方裁判所 平成4年(特わ)68号 判決 1992年11月30日

主文

被告人を懲役三年六月に処する。

未決勾留日数中六〇日を右刑に算入する。

押収してあるけん銃一丁(平成四年押第二六二号の1)、実包三発(同号の2)及びビニール袋入り覚せい剤六袋(同号の3ないし8)をいずれも没収する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、いずれも法定の除外事由がないのに、

第一  平成四年一月五日、東京都千代田区《番地略》先路上に停車中の普通乗用自動車内において、手製けん銃一丁(平成四年押第二六二号の1)、けん銃用手製実包三発(同号の2)及び覚せい剤である塩酸フェニルメチルアミノプロパンの結晶四七・六七二グラム(同号の3ないし8はその鑑定残量)を所持した

第二  平成三年一二月中旬ころから平成四年一月六日までの間に、東京都又は茨城県若しくはその周辺において、覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパン若干量を自己の身体に摂取し、もつて、覚せい剤を使用した

ものである。

(証拠の標目)《略》

(事実認定の補足説明)

弁護人は、平成四年二月二五日付け追起訴状記載の公訴事実(判示第二で認定した覚せい剤使用の事実)につき、被告人は無罪であると主張し、その理由として、右事実を認める被告人の捜査段階の供述は、捜査官が、当時、頚部損傷のため頚部や頭部の痛みに悩まされていた被告人に対し、自白をするのと引換えに十分な治療を受けさせてやると言つて取引をしたり、あるいは、自白をしないと被告人の友人や知人方等の捜索差押をする、あるいは、別居中の被告人の妻と復縁させてやるなどと甘言を弄して自白をさせたものであるから任意性を欠き、また、被告人は、交通事故の後遺症による痛みを鎮めるために覚せい剤を注射したと供述しているが、痛みを鎮めるためであればモルヒネを服用ないし注射するはずで、逆の作用を有する覚せい剤を注射するはずはなく、また、被告人は、ホテル甲野一一一〇号室のベッドとベッドの間で覚せい剤を注射したと述べているが、被告人は身体障害のために車椅子を使用しているものであるところ、右ベッドとベッドの間には車椅子が入る余地がないことが明らかであるから、被告人の供述には信用性もない、また、被告人の尿の採尿手続には、捜査官が、採尿後、尿を入れたポリ容器を長時間封かんせずに放置していた瑕疵があるところ、この瑕疵は重大であつて、採尿手続全体を違法とするものであるから、その鑑定結果も証拠から排除されるべきであると述べ、被告人も、弁護人の所論に沿う供述をする。

そこで検討するのに、はじめに、被告人の尿の採尿手続について考えてみると、証拠によれば、被告人は、平成四年一月五日覚せい剤とけん銃及び実包の所持罪で現行犯逮捕された後、覚せい剤使用の嫌疑を抱いた捜査官から尿の任意提出を求められたが、これを拒否したため、翌一月六日捜索差押許可状の発付を得た捜査官により東京警察病院へ連行され、そこで、医師により強制採尿が行われた、その際、捜査官が尿を入れたポリ容器に貼付する封かん紙を持参するのを失念したため、採尿直後に現場でポリ容器には封かん紙が貼られず、中央署に戻つてから封かん手続をする際にもこれを写真撮影しなかつたことが認められ、こうした点は、覚せい剤使用事犯について通常行われている捜査手続に照らすと、確かに捜査官側の落ち度ないし不注意と目されないではないが、他方、こうして押収された被告人の尿が、その後、警視庁科学捜査研究所に届けられて鑑定に付されるまでの間に、他人の尿と取り違えられたり、他の尿と混ざるなどした形跡を窺わせるような事実は全く認められず、鑑定の結果、この尿から覚せい剤が検出されていること、さらに、その後、弁護人の申請により当裁判所が採用した被告人の頭髪の鑑定結果によつても、被告人の頭髪中からも覚せい剤が検出され、覚せい剤使用の時期についても、「平成三年一一月二九日から一二月二七日の期間(誤差は前後一〇日間程度)」との推定がなされていることが認められるところ、これら鑑定の結果や経緯に疑問を挟む余地はなく、被告人の覚せい剤使用の事実を二重に裏付けていることが認められる。したがつて、被告人の覚せい剤使用の事実については、その自白を待つまでもなく明白であると考えられるところ、被告人の捜査段階における自白は、右に認定した客観的事実にほぼ合致するものであることが認められるのである。そして、被告人の取調べ状況についても、被告人の供述の任意性に疑いを挟む余地は全く認められず、かえつて、弁護人の所論に沿う被告人の弁解は、判示第一で認定した覚せい剤やけん銃等の所持について被告人がその理由ないし動機として供述する内容や、また、覚せい剤とけん銃等の所持罪で検挙された際、被告人が乗つていた車両は被告人以外の第三者が運転していたとの供述、さらに、頚髄損傷、頭部外傷による右半身麻痺、左上下肢機能障害で身体障害者等級表により一級の認定を受けている被告人が、自動車運転免許証を更新した際の状況について供述する内容などと同様に、不自然、かつ、不合理であつて、到底信用することができないものである。

以上の次第で、弁護人の主張は理由がなく、被告人の覚せい剤使用の事実についても、犯罪の証明は十分である。

(法令の適用)

被告人の判示第一の所為のうち、けん銃所持の点は銃砲刀剣類所持等取締法三一条の二第一号、三条一項に、実包所持の点は火薬類取締法五九条二号、二一条に、覚せい剤所持の点は平成三年法律第九三号(麻薬及び向精神薬取締法等の一部を改正する法律)附則三項により同法による改正前の覚せい剤取締法四一条の二第一項一号、一四条一項に、判示第二の所為は、平成三年法律第九三号附則三項により同法による改正前の覚せい剤取締法四一条の二第一項三号、一九条にそれぞれ該当するところ、判示第一の所為は一個の行為で三個の罪名に触れる場合であるから刑法五四条一項前段、一〇条により一罪として刑及び犯情の最も重い覚せい剤取締法違反罪の刑で処断することとし、右は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役三年六月に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中六〇日を右刑に算入し、押収してあるけん銃一丁(平成四年押第二六二号の1)は判示第一の銃砲刀剣類所持等取締法違反の犯罪行為を組成した物、同実包三発(同号の2)は判示第一の火薬類取締法違反の犯罪行為を組成した物で、いずれも被告人以外の者に属しないから、刑法一九条一項一号、二項本文を適用し、同じくビニール袋入り覚せい剤六袋(同号の3ないし8)は判示第一の覚せい剤取締法違反の罪に係る覚せい剤で犯人である被告人が所持するものであるから、平成三年法律第九三号附則三項により同法による改正前の覚せい剤取締法四一条の六本文によりいずれもこれを没収し、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文により全部これを被告人に負担させることとする。

(量刑の理由)

本件は、判示のとおり、被告人が行つたけん銃一丁と実包三発及び覚せい剤四七グラム余りの所持と、覚せい剤のいわゆる自己使用事犯であるが、所持にかかる覚せい剤の量それ自体が極めて多量である上に、けん銃についても、被告人はこれに実包を装填し、いつでも使用することが可能な状態にして、これをセカンドバッグの中に入れて所持していたというのであつて、覚せい剤やけん銃等の所持の動機ないし理由として被告人が述べるところが、十分説得力を持つものとはいい難いことを併せ考えると、犯情はよくなく、被告人は厳しい非難を免れない。のみならず、被告人は、覚せい剤使用事犯についても、自己の尿や頭髪中から覚せい剤が検出され、こうした客観的証拠を目の当たりにしながらも、なお、不自然、かつ、不合理な弁解に終始してはばからないのであつて、そこには、自らの非を認め、反省改悟するという真摯な態度は全く認められないのである。

してみると、被告人の身体的状況や家庭の状況、また、被告人が財団法人法律扶助協会に対して金一〇〇万円を贖罪寄附していることなど、被告人のために有利と思われる事情を極力斟酌してみても、主文の科刑は免れない。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 川上拓一)

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